夏の甲子園大会

花咲徳栄、県勢初の夏制覇 広陵に14-4で快勝

 埼玉県に初めて深紅の大優勝旗をもたらした。夏の甲子園は大会最終日の23日、決勝が行われ、花咲徳栄が広陵(広島)を14-4の大差で降し、埼玉県勢として初となる夏の甲子園優勝を果たした。2点をリードした花咲徳栄は五回に打者一巡の猛攻で6点を加点し、主導権を握った。投げては綱脇慧、清水達也の両投手が4点を失ったものの、広陵の主砲・中村奨成捕手から2三振を奪うなど粘りの投球を見せた。清水投手が最後の打者を打ち取ると選手らはマウンドに駆け寄り、人さし指を天に突き上げて喜びをかみしめた。

 今大会を通じて好調だった花咲徳栄打線が、決勝でも爆発。五回表、リードを一気に広げた。2死二塁から、岩瀬内野手が打席に。「まだまだ行ける、まだまだ行ける」の声援に応えるように、三塁線を破る適時打。打者一巡、一挙6点の猛攻に保護者やOBはメガホンを何度もたたき合い喜んだ。

 初回、3番・西川外野手がバットを振り切った打球は、内外野の間にしぶとく落ちる先制の2点適時打に。準決勝では1安打に抑えられていた。母裕子さん(46)は「愛也の活躍ではなくチームが勝てばいいんです」と目に涙をためた。

 二回に1点を返され、まだ緊張が続く。野球部コーチの福本真史さん(31)は「守備も落ち着いて、一球を大事にできている」。

 三回表、相手に傾きかけた流れを再びたぐり寄せた。2死二、三塁の好機に、須永捕手が中前に鋭くはじき返した。大きな2点に、校歌で盛り上がるアルプス席の応援団。そこに夢中になってカメラを向けていた写真部の鈴木小春さん(2年)は「甲子園で撮った中で一番の写真です。でも、自分も肩を組んで校歌を歌いたかった」と残念がった。

 五回表の猛攻が勝敗を分けた。俊足で三塁に駆け込んだ太刀岡外野手の母徳子さん(47)は「いつも(滑り込むので)ユニホームが泥だらけ。私の友人に『洗濯しようか』とからかわれます」と笑顔。適時二塁打を放った高井内野手の妹で、同校女子硬式野球部の愛美さんは「自分もお兄ちゃんのような選手になりたい」。

 投げては綱脇、清水の両投手が広陵の主砲・中村捕手に本塁を踏ませなかった。七回には清水投手が中村捕手を三振に打ち取った。熱戦を終え、父正巳さん(54)は「入学してから、いつも『あと少し』で負けてしまう試合が多かった。本人も本当に喜んでいると思う」と感慨深げだった。

120%の力出し切る

 「1枚の布だけど、それ以上の重みを感じています」。三塁側の花咲徳栄応援席では、応援団長の野球部員、綿吉祐太さん(3年)が腕章を腕に巻き、声援を送った。野球応援を主導する応援部には一昨年から部員が入っていない。そこで、野球部員の中から応援団長を選び、応援を盛り上げてきた。19日の3回戦では、応援部OBがスタンドに駆け付け、「これ使って」と水色の腕章を渡されたという。綿吉さんは「帰り道、声が出なくてもいい。120%の力を応援でも出し切ります」と話した。

最後まで楽しんで

 5年前に花咲徳栄野球部で主将を務めていた小山征護さん(23)ら、野球部OB約50人がスタンドに駆け付けた。小山さんは3年生だった最後の夏に県大会8強で敗退した。「自分たちの分も甲子園で勝ち進んでほしい」という思いで、同校が夏の甲子園に出場するたびに応援に来ている。同校は夏の甲子園の決勝進出は初めてだが、「気負わないで最後まで楽しんで野球をしてほしい」と話し、野球部員に負けない大声で声援を送っていた。

サスケの歌で応援

 「出るぞ、出るぞ、出るぞ、出るぞ、ホームラン」。花咲徳栄の応援席では、野球部員らが応援歌「サスケ」を披露した。アニメ「サスケ」のテーマ曲を元に、応援用に編曲したもの。ひときわ大きな声で熱唱していた野球部の山賀龍太郎さん(3年)は「グラウンドに立てない分、力強く歌い、選手たちを勇気づけたい」。吹奏楽部の大嶋萌亜さん(3年)も「選手が勢いづくように一生懸命演奏したい」と話した。

野球少年の望み、まだ続く 花咲徳栄3年・清水達也投手

 幼い頃からの夢だったユニホームで憧れの舞台に立った。七回裏の先頭は広陵の中村捕手。試合前に「日本一の打者」と話し、対戦を心待ちにしていた。変化球で三振に打ち取り、5回を1失点に抑え、日本一に輝いた。

 マウンドで思い描く姿は、小学4年の時にセンバツに出場した花咲徳栄を甲子園まで観戦に行った際、所属する野球チームの先輩が見せた完封劇だ。「みんなうまくてユニホームもかっこいい」。作文で将来の夢を「花咲徳栄高校に行き、甲子園に行く」と書いた。

 2年の秋、背番号1を手にしたが、今春の強豪校との練習試合で押し出しサヨナラ負け。どう投げていいか分からなくなった。背番号10で臨んだ春の県大会地区予選後、岩井隆監督に「まだお前は試合で投げさせる投手ではない」と叱責された。悔しかった。その日のうちに約200球を投げ込んだ。70球を超えたあたりで「球が伸びてミットを少し押すような球」が捕手のミットに飛び込んだ。そして、夏。エースナンバーを取り戻した。

 試合前に話した優勝の夢も現実となった。それでも心残りがある。中村捕手に直球で勝負した九回に二塁打を許した。「また対戦したい」。日本一の先にも、夢はまだ続く。

甲子園に負けない 校内で500人声援

 23日の夏の甲子園決勝では、花咲徳栄高(加須市花崎)の講義室でも女子野球部員や職員、保護者ら約500人が大型スクリーンで試合を観戦し、甲子園のアルプス席に負けない声援を送った。

 一回表に西川愛也外野手(3年)の適時打で先制すると、生徒らは両手に持った赤と青のメガホンを鳴らして喜びを爆発させ「かっ飛ばせー」「もっと、もっと」と大声援を送った。その後も得点を重ねる度に校歌や応援歌が飛び出し、全員が一つになって盛り上げた。最終回、最後の打者を打ち取り初優勝を決めると、生徒たちは満面の笑みで「万歳!」と歓声を上げ、会場は歓喜に包まれた。

 陸上部の川田花月(かんな)さん(1年)は「点を取られた後にすぐ返したのはさすが、花咲徳栄。かっこいい!」と声を弾ませ、空手部の小花大輝さん(1年)は「優勝できてうれしい。選手たちが帰ってきたら『おめでとう』と言いたい」と感激していた。

 松嶋徹教頭は「大量得点で安心して見ることができた。感動をありがとう」と日本一の選手たちに感謝した。

「興奮して眠れない」 県庁訪問者ら

 県庁では23日の夏の甲子園決勝のテレビ中継を県民案内室で流し、待ち合わせや休憩で訪れた県民が見入っていた。県の担当者によると、案内室のテレビでは普段は県の広報番組やPR動画を流しているが、今年から甲子園の県代表の試合を流し始めたという。さいたま市大宮区のパート、山本幸子さん(54)は「選手の笑顔と涙が見たいと思っていた。最後まで一生懸命やる姿に感動した。県民として感動を分かち合えてよかった。興奮して眠れないかもしれない」と大喜びだった。

花咲徳栄・岩井隆監督「攻める野球できた」

 選手が厳しい練習を乗り越えた結果が今日出た。打線も好調で、最後まで攻める自分たちらしい野球ができた。一歩一歩実力を高めて優勝をつかみ取った彼らにおめでとうと言いたい。

花咲徳栄・千丸剛主将「皆が支えてくれた」

 先輩たちが悔しい思いをしているのを目の前で見てきて、自分たちこそは優勝しようと厳しい練習にも耐えてきた。自分は頼りない主将だったが、みんなが支えてくれたおかげで優勝できた。

広陵・中井哲之監督「まだ努力足りない」

 残念でした。大量得点をされて、ミスも出た。まだまだ努力が足りないのだと感じた。平元(銀次郎投手)は一生懸命投げた。全部員に心の底から「ありがとう」と伝えたい。また頑張ります。

広陵・岩本淳太主将「相手打撃に力負け」

 相手の打撃力が思ったよりも強く、力負けした。失策があったことも敗因。ただ、決勝戦まで来ることができてよかった。試合後、仲間たちには「堂々としとけよ」と伝えた。

花咲徳栄今夏の戦績

【埼玉大会】
2回戦 11-1 越谷総合(五回コールド)
3回戦 20-1 大宮南(五回コールド)
4回戦 8-2 武蔵越生
5回戦 5-1 浦和実
準々決勝 9-1 ふじみ野(七回コールド)
準決勝 11-1 山村学園(七回コールド)
決勝 5-2 浦和学院

【甲子園】
1回戦 9-0 開星(島根)
2回戦 9-3 日本航空石川(石川)
3回戦 10-4 前橋育英(群馬)
準々決勝 10-1 盛岡大付(岩手)
準決勝 9-6 東海大菅生(西東京)
決勝 14-4 広陵(広島)

埼玉県勢の甲子園決勝戦績

1951年夏 熊谷●4-7平安(京都)
1968年春 大宮工○3-2尾道商(広島)
1993年春 大宮東●0-3上宮(大阪)
1993年夏 春日部共栄●2-3育英(兵庫)
2008年春 聖望学園●0-9沖縄尚学(沖縄)
2013年春 浦和学院○17-1済美(愛媛)
2017年夏 花咲徳栄○14-4広陵(広島)

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