父の俊也さん(44)も熊谷商の野球部員だった。その父は三年のときに夏の大会で5回戦に進んだが、サヨナラ負けを喫した。「必ずおやじを越えて、甲子園に行く」。俊也さんにそう誓って熊谷商に入学し、同じ5回戦の舞台に立った。しかし、約束を果たすことはできなかった。
小学生のときから熊谷商のグラウンドに通った。俊也さんは当時からずっと野球部のコーチを務めており、野球を教える父の背中を見て育った。熊谷商の野球部に入ると、学校のグラウンドで毎朝、チームの仲間たちと俊也さんのノックを受けてきた。
今大会はノーシードから勝ち上がり、この日は強豪・聖望学園との対戦になった。1-2で迎えた八回、2死一、三塁の場面。長打が出れば逆転のチャンスで打席が回ってきたが、外角を外れた直球に手を出し、空振り三振に倒れた。チームは追加点を奪えず、それが最後の打席になった。
試合が終わると、目に浮かぶ涙を拭いながら「悔しい」とつぶいた。「今の自分があるのは、おやじのおかげです」とも。そんな息子を球場で見守った俊也さんは「気持ちでもプレーでも俺を越えた」とたたえた。
(東京新聞埼玉版)